マツについて調べてみました(続)―菌根菌との共生関係

マツと菌根菌の共生について
マツの吸収根のほとんどは菌類と菌根を作り共生しています。菌根を形成する菌根菌の力を借りて、マツは荒れ地でも生育できることから、先駆植物(パイオニアプランツ)とも言われています。
火山噴火のような荒れ地では、マツ類の種子が飛来し発芽しても、生育できないで終わることも多いようですが、何らかの作用で菌根菌と出会うと、突如急激に成長を始め、やがて菌根菌のきのこも発生してくるようになります。
しかし土砂崩れや山火事程度の荒れ地では、菌根菌が無くなってしまうことはないため、発芽後まもなく菌根菌とであうことができ、回復は早いようです。
しかし、マツは陽あたりがよくないと生育できない陽樹であり、いったんマツ林ができあがってしまうと幼樹が育つことができなくなります。代わりに日陰でも成長できる陰樹が成長してくるため、マツ林として世代を繰り返すことは難しく、やがて陰樹の林に遷移します。
天然のクロマツ林は海岸の断崖などに見られることが多く、天然のアカマツ林が残るのは尾根筋などで、他の樹種が侵入できない劣悪な環境の場所に限られています。
地上に有機物の蓄積が進み土壌が肥沃化すると、マツと共生する菌根菌以外の菌類が増え、土壌病原菌の密度も荒れ地より高くなりやすく、マツと共生する菌根菌は勢力が衰えてきのこも発生しなくなり、マツもまた弱体化すると考えられています。
逆に土壌が貧栄養なままであればマツの菌根も勢力を維持でき、マツの競争相手も現れることが難しいため、マツ林が継続することになると考えられています。
通常は落葉などが蓄積し草本や灌木が生えて土壌は肥沃化してきますが、それを阻止してきたのが人間の営みです。
かつて燃料などにするするため松葉掻きや柴刈りをしていたことが、土壌に有機物が蓄積することを妨げ、結果として土壌環境をマツと菌根菌に適した貧栄養な状態に維持してきたようです。
乾燥や貧栄養といった劣悪な環境に対しては強力なマツと菌根菌の共生関係も、土壌の富栄養化の前には無力で、人里近くのマツ林は、マツと菌根菌、それに人間を含めた三者の共生関係にあるといえそうです。
外生菌根菌についての補足です
マツと共生する菌根菌は外生菌根菌といわれ、きのこを形成するものが多く、アカマツでは数十種類、カラマツでも十種類以上のきのこが知られていて、中でもマツタケは有名ですが、マツタケはアカマツ以外にもツガやコメツガなどにも菌根を作るようです。
外生菌根菌は種類が多く、主に樹木の根と共生し、樹木が光合成によって生成した糖分を根からもらう代わりに、根の養分吸収や水分吸収を促進し、根の耐病性を向上させ、さらには土壌中のアルミニウムイオンや重金属イオンなどの有毒物質から保護するといった働きをしているそうです。
従って肥料分の少ない土壌においては、菌根菌の接種によって樹木の生長は大きく促進されます。ただし肥沃な土地ではこの機能は目立ちません。また菌根化することによって土壌病原菌に対して抵抗力が大きく向上することになります。
植物の肥料要素は無機化されてから植物に吸収されると考えられてきましたが、菌根菌の菌糸は無機化したものを吸収するだけでなく、ときには有機態のまま吸収して樹木に供給するということがわかってきたり、菌根菌の菌糸が有機酸で積極的に岩石を溶かして、リンなどの元素を吸収していることも明らかになってきているそうです。
ラン型菌根菌も調べてみました
ラン科植物と共生するラン型菌根菌は、他のタイプの菌根を形成するものとは大きく異なり、単独で腐生的に生活する能力を持つものがたくさんあります。
ラン型菌根菌は、ラン科植物の吸収根の皮層細胞内に菌糸コイルを形成しますが、一定期間を経ると植物に分解吸収されてしまいます。
また、外生菌根菌の一部には、樹木と外生菌根を作る一方で、ラン科植物ともラン型菌根を形成するものがあります。ラン科植物の多くは生活に要するエネルギーの一部または全部を菌根菌に依存するため、全体としてみると樹木が菌を介してそれらの植物を養っていることになります。
葉緑素を持たず光合成を行うことのできない無葉緑ランは、腐生ランとも呼ばれますが、菌根菌に寄生している菌従属栄養植物です。
             三ツ峠のカモメラン             三ツ峠のヒメムヨウラン
ラン科植物の種子は微細で、未分化な胚があるだけで、胚乳はなく、自然下ではラン型菌根菌が存在して初めて発芽が可能になります。吸水した種子に菌根菌が侵入し、外から養分を運び込むことによって胚の分化が始まり、菌類との複合体を形成することで、ラン型菌根をもった植物体へと成長します。
ランの種類にもよりますが、糖などを含んだ培地に播種して無菌的に発芽させることが、園芸分野で行われています。ラン科植物単体を育てることができても、自然下での生態系が再現できているのではありません。造花を楽しむのとなんら変わらないと思います。
希少植物を保全していくために研究することはよいとしても、園芸的に栽培し売買することは奇をてらった金儲けにすぎず、ひいては天然ものはより貴重で高価に取引できるということにつながり、再び自生地が盗掘の被害に遭うといった危険性があります。
山野草を売買する人たちが、山野草を通して自然界の美しさや不思議さを観賞したり自然環境を理解する心から、一番かけ離れているように思えます。

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