乙女高原フォーラム
2011年2月6日、山梨市民会館で開催された第10回乙女高原フォーラム「シカ・人・乙女高原の今と未来」に参加してきました。3年続けて「シカ」がフォーラムのテーマです。
乙女高原ファンクラブの活動
開会の挨拶が終わると、初めに乙女高原ファンクラブの活動報告があり、続けて乙女高原で行われているシカ柵のモニタリング調査の中間報告がありました。
(社)関東建設交際会による弘済会「関東・水と緑のネットワーク拠点選」支援事業としての助成金により、昨年5月9日にボランティアの協力で、草原2か所と湿地に1か所シカ柵を設置し、その後ほぼ1週間に1回のペースでシカ柵周囲と内側の状況を観測した。
柵の外側では、今年6月5日にタムラソウとシシウドの葉が、7月10日にはタムラソウとハンゴンソウの葉が採食されているのが認められ、内側より草丈が低いことが観察された。一方、内側では、7月25日にミズチドリが4年ぶりに開花しているのが確認されたことなどが報告されました。
山梨県内各地の活動事例
次に、山梨県内各地でシカ問題に取り組んでいるグループの事例が報告されました。
● 南アルプス市の櫛形山アヤメ保全対策
地元の巨摩高校自然科学部が過去に行った調査結果で、アヤメ平と裸山の総株数約2900万本、花数約320万個と推定されたアヤメが、年々減少してきているという指摘もあったが、平成18年に開花数が激減し、平成19年にはほとんど咲かなくなってしまった。
いろんな原因が考えられたが、シカの食害といった外的要因を除去してみるために、アヤメ平に4か所、裸山に3か所、ネットを設置したところ、3年目の昨年、平成22年に、ネットの中ではアヤメが数10個咲いているのが確認された。
他の要因も考えられるので、植生の復元のため、モニタリングを続けながら保全対策を検討し、櫛形山の自然の魅力を地域力で高めていきたいとの発表でした。
● 八ヶ岳自然クラブのシカグループのライトセンサス活動
八ヶ岳南麓のシカの生息状況を把握するため、高原道路の車中より、八ヶ岳牧場を投光機により、毎年、12月から翌年3月まで、月3回程度、期間中10回以上の観察を行ってきた。
ニホンジカは増えていること、群れが大きくなっていること、12月~1月は特に多く出現することがわかっており、幼樹の食害・樹皮はがし、牧草の減収、庭や菜園の食害、さらには電車や自動車との衝突といった被害が起きている。
最近は夏でもシカが牛と一緒に草を食べているのを牧場主が確認している。今後、山野草グループとの情報交換や夏期の山岳地域や市街地の調査も行っていきたいとの発表でした。
● 三窪高原のレンゲツツジ生育地の保護活動
平成15年から17年にかけてシカによる食害が拡大してしまい、平成19年になって2か所、20年に3か所、21年に2か所、県の補助金を受けて防護柵を設置した。
育てている実生苗を数年後には植樹できるようにしたいとの発表でした。
後で行われた質疑にもありましたが、東京都が水源地の保護対策に先行着手した結果、東京都のシカ問題が山梨県や埼玉県に移行したといった経緯も見られることから、シカ対策は行政区域をまたがった広域活動として、連携していかなければならない問題だということです。
講演「シカが植物群落に及ぼす影響:草原への影響は複雑」
各地の活動事例の後、休憩を挟んで、スペシャルゲストの麻布大学獣医学部教授の高槻成紀さんのお話がありました。動物生態学が専門で、「シカの生態誌」「野生動物と共存できるか」といった著書があります。
この日のお話の内容をメモ書きしたものを記載しておくと、
6月に生まれたメス鹿は、翌年の秋には妊娠が可能となり、その翌年、つまり生まれて2年後には子供を産むことになり、ほぼ毎年子供を産み続ける
一夫多妻のオス鹿は、初秋までに増えた体重が20kg減量するほど交尾に励む
大寒波の年、春の大雪などで頭数が半減するほど大量死しても、すぐに頭数は回復する
冬場はササを食べるが、枯れ葉も食べる
ブナ林のスズタケが食べられてしまった後にはツツジ科の毒草が繁茂していた
シカのいる林では幼樹が少ない
ススキの草原に柵を設置しそのままにすればやがて林に変わること、シカにより草原が維持されているという見方もできる
植物は食べられっぱなしではない、トゲのあるもの、シカのきらいな臭いを放つもの、有毒な成分をもつもの、固くて食べにくいもものがあり、また、ササは食べられた分だけ新芽の数が増える
シカの採食影響は、個々の種だけをとらえるのでなく、群落としてとらえる必要がある
自然保護も種の保護から生態系機能の保全へと変わってきている
野生動物の研究に携わってきて、いろんな生き物がつながって生きていることの素晴らしさを感じており、シカ問題をはじめ、個々の問題としてではなくバランスの問題としてとらえ、どういう自然を考えるのか、ビジョンをもって取り組んでいく必要があるといったお話でした。
フォーラムに参加しての考察
三ツ峠ネットワークも、単にアツモリソウを保護するだけでなく、生育環境を保全するという考えで取り組んでいますので、そのためにはコドラート調査をして、継続的に観測していくことが重要です。
シカを害獣として補殺するのではなく、シカを狩猟していくことは日本人の生活文化の問題として、取り組んでいかなければならないということです。そのためには、行政・林業・猟友会・市民のコンセンサスが得られるよう、地域文化のビジョン作りを話し合っていく必要があるでしょう。
フォーラム参加、お疲れさまでした。情報ありがとうございました。
毒のあるレンゲツツジまで食するとは知りませんでした。食欲旺盛ですね。鹿の問題は厄介そうですね。
今朝は、夜中に自宅を出て三浦半島の南端で星空と夜明けの写真を撮影してきました。うまくみれない場合は、リンク先からどうぞ。