複眼の偏光視
光には横波の性質があり、太陽光はあらゆる振動面の光を含んでいますが、それが物にあたって反射した光は、ある限られた振動面をもつ光になります。このように振動面が決まっている光を偏光といいます。水面がギラギラ光って見えるのも偏光の関係です。
人間には光の振動面を見分ける能力がないので、どの光も同じように見えますが、昆虫の複眼では、特定の偏光方向に敏感な視細胞が色々な方位に規則正しく並んでいるため、偏光を見分けることができます。
ミツバチの複眼には、背側に特殊な個眼が集まった部分があります。水平な所に止まっている場合に空を見上げている部分で、ここの個眼は偏光に特に感度が高く、太陽が地平線近くにある時の青空の偏光パターンに、ほぼ対応した配列になっているようで、ミツバチが水平な所に止まって、空が一番明るく見えるように体の向きを決めたとすると、体軸は太陽子午線と平行になり、太陽を見なくても太陽の方向を知ることができるそうです。
昆虫の帰巣の仕組み
昼間活動する昆虫が、巣から出て巣へ戻るためには、自分のいる位置を巣から見てどの方角でどれくらい離れているかを知っていなければなりません。そのためには一日の時刻を知り、その時刻の太陽の位置を知って、さらにどの方角にどれだけ移動したかを方位ベクトルとして積算できている必要があります。
太陽が見えている場合は、その位置を知ることは簡単ですが、太陽が見えてない場合でも、昆虫は偏光を利用して太陽の位置を知ることができます。
また、どれだけ移動したかは、複眼の網膜に映る像の流れをもとに、オプティカルフロー量として認識できているからだと考えられているようです。
単眼の働き
多くの昆虫は、一対の複眼とは別に、2~3個の小さい単眼をもっています。昆虫の単眼は、角膜レンズと通常数百から千個程度の視細胞の網膜からなるレンズ眼で、人間の目に似ていますが、レンズは網膜に焦点を結ばず、明暗しか検知できないようですが、その代わりに光強度の変化には感度良く検知できる構造であり、信号伝達速度もきわめて速いそうです。
この3つの単眼の明暗変化の組み合わせにより、体の縦揺れ、横揺れ、それに回転といった飛翔姿勢を制御していることが確認されていて、薄暗い木々の間をぶつからないよう通り抜け、すばやく姿勢を立て直すことができるのは、単眼のお陰だということです。
昆虫の単眼3個による姿勢制御の仕組みをまねて、3個の光センサーを備えた飛行安定装置がラジコン飛行機の制御に活用されていて、特にきりもみ落下の状態から姿勢を立て直すのに威力を発揮しているようです。
不完全変態するトンボやセミなどの昆虫は、幼虫時代から複眼が形成されてきますが、完全変態するチョウの幼虫には複眼はなく、口の両側にある触角の少し上に6個ずつの小さな点状の単眼をもっています。この単眼は成虫の単眼とは異なり、複眼の一個一個に相当するようです。
アゲハチョウの尾端光受容器
アゲハチョウは、前脚で葉の味を確かめたうえで、腹を曲げて産卵をします。産卵のため、産卵管の両脇に、紫外線から青にかけての波長範囲でよく反応する光受容器があります。この光受容器を使って、産卵管が十分に突き出されていることを確認したうえで、産卵管が何かに触れると卵を産む仕組みになっていて、光受容器が壊されてしまうと、産卵管が出たかどうかわからなくなり、うまく産卵できなくなってしまうようです。
メスだけでなくオスにもあります。オスの場合は、交尾のときにメスの交尾器を支えるバルバという構造を開いたところにあり、交尾がうまくできるとこの受容器への光が閉ざされることで、確認ができているようです。