今年も明日はいよいよ大晦日です。今年の三ツ峠ネットワークの活動を総括する上で、三ツ峠山荘の中村光吉氏が、 去る11月30日、東京都新宿区霞ヶ丘町の「日本青年館」で開催された「山はみんなの宝!全国大会」―山の自然保護と適正利用を考える“国民会議”立上げのために―において、「山の植生保護―高山植物の盗掘、踏みつけとシカの食害、及びニホンジカの増えたことについての考察」を講演されていて、その内容について語り合ったことを紹介しておきたいと思います。
盗掘、踏みつけとシカの食害
三ツ峠山は多様な生態系を呈し、絶滅危惧種である希少動植物種アツモリソウが自生していて、かっては登山道わきにたくさん見られたと聞きますが、盗掘や踏みつけによって生態系のバランスがくずれ、株数が減少するとともにササやテンニンソウ、それにヤマドリゼンマイといったアツモリソウにとっての脅威植物がはびこるエリアが広がってきてしまっています。
これまでのように監視パトロールだけではアツモリソウを保護できなくなり、アツモリソウにとっての植生を復元するため、行政や地権者の許可をもらい、これらの脅威植物を除去するなどの作業をボランティア仲間と一緒に行うようにしています。
また、カラマツの根元近くにアツモリソウが残っていたりしますが、これはあまり目立たず盗掘や踏みつけなどの被害に遭わずにすんだからで、それが今やカラマツの成長によって日光が当たらなくなり、今はアツモリソウの生育の障害になってしまっていますので、大きく成長したカラマツの下枝の除伐作業も行っています。
一緒にアツモリソウの保護活動をするボランティア仲間でネットワークを結成するに至ったところに、今年になってニホンジカの採食影響が生じました。これまでもニホンジカをたまに見かけることはありましたが、カモシカもいたりして、食害問題までには至っていませんでした。
今年の4月にカモシカをセンサーカメラで撮ってありました。
雪が残っている4月18日の写真
雪が溶けた後の4月23日の写真
ニホンジカが群れで来るようになったからだと思いますが、今までよく見かけたカモシカが見られなくなりました。どこか別の場所に追いやられてしまったようです。
ニホンジカの食害問題は三ツ峠山だけでなく、高山植物の豊富な南アルプスなどのお花畑でも深刻な状態にあり、それらの地域で活動されているグループに教えてもらいながら、お互いに連携し合って活動していきたいと思います。
ニホンジカが増えたことについての考察
ニホンジカが増えたことを考えてみると、一つに牧草地が原因となっているように思います。ニホンジカはカモシカとちがって本来は移動性の生活をしてきました。一か所食いあさってダメージを与えても、翌日以降は移動して同じ所にはしばらく戻って来ないので、植生も復元する機会があります。カモシカは自分のナワバリで採食するため、食いあさることなくツマミ食いのような食べ方をするので、ダメージもほとんど与えません。
ところが山麓に牧草地が拡大したことで、昼は牛が放牧されていても夜は牛舎に入ってしまい、ニホンジカが牧草を採食するのは容易です。周辺にはスギ林などが植林されていて隠れる場所もあります。さらに最近は休耕地も増えていますので、牧草地と相まってニホンジカを定住化させてしまっているのではないでしょうか。
牧草は山野草と違って栄養も豊富であり、繁殖活動も旺盛になっているようです。いっそのこと牧草地を昼は牛を放牧し、夜はニホンジカの自然牧場として、人の管理のもとで鹿牧場を作ることを考えてみたらどうでしょうか。
ニホンジカが増えたもう一つの原因として林道の問題があるように思います。野生動物は本来自分たちの獣道を使って移動していましたが、これだけ林道が増えてしまい、しかも通常は使われず夜であれば全く使われないことから、夜行性の野生動物にとって便利な高速道路になっているといった印象です。採食や交尾のための行動範囲が広がったということが考えられます。
晩秋になって夜間は山頂付近で雄ジカの交尾期の鳴き声が聞こえていましたが、この時期再びヒロハツリバナが採食によって新たに皮剥ぎ状態になっているのが見つかりました。単に草の代用に木の皮を食べているとは思えません。
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宮下正次著「炭はいのちも救う」という本に次のような記述があります。
栃木県・足尾の山では「森林の会」などが炭を撒き、マツを元気にさせてきた。ところがあるとき、土壌表面に一面に撒いた炭がなくなっていた。どうしたのかと首をひねっていたところ、シカの糞が黒光りしていることに気がついた。シカが食べたのかもしれないということで、今度はシカが食べやすいように一袋分を山盛りにして、塩をふりかけて置いてきた。数ヵ月後に現地に入ってみると、そこには炭がひとかけらも残っていなかった。・・・シカはミネラルの補給のために炭を欲していたのではないだろうか。
草の生える土壌の表面ではミネラルが乏しくなっていて、いくら草を食べても、シカはミネラル不足になっていたと考えられる。それどころかミネラル不足の草すら生えにくくなっているので、樹木へのシカの食害はますます増えることになる。土壌に十分なミネラルを補給して豊かな土壌を作ってやれば、ミネラルをたっぷり取り込んだおいしい草ができ、シカも落ち着いてくるだろう。
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幹をプラスチック製メッシュで胴巻きしてニホンジカによる皮剥ぎ被害を防いでいる事例もありますので、林のヒロハツリバナに同様の対策をとり、試みに周辺に塩をふりかけた炭を撒いてみようかとも考えています。
これらのことは、ニホンジカだけでなくクマやイノシシの問題とも相通じるところがあるように思います。人間の都合でやってきたことが、知らず知らずのうちに野生動物の生態系を狂わせてきたのではないでしょうか。人間が自然を利用する上で、野生動物との折り合いをつけるための施策が必要な時期だと暗示してくれているように感じます。
「山はみんなの宝!全国大会」の趣旨である「山の自然保護と適正利用」について、三ツ峠を拠点に一緒に活動していただける方は、「お問い合わせ」から三ツ峠ネットワーク事務局までご連絡ください。