マツ科植物について
マツ科植物は北半球の温帯地方を中心に分布し、針葉樹の半分以上がマツ科植物の種類です。南半球には本来分布せず、現在南半球にあるのは北半球から移植したものです。
日本に自生するマツ科植物は、マツ属・モミ属・ツガ属・トウヒ属・トガサワラ属・カラマツ属です。カラマツ属は黄葉して落葉しますが、他は常緑樹です。日本に自生していない公園や街路などで見られるヒマラヤスギは、同じマツ科のヒマラヤスギ属です。
日本のマツ属は、大きくは二葉松(ニヨウマツ)と五葉松(ゴヨウマツ)に分けられます。アメリカや中国・ヒマラヤには三葉松(サンヨウマツ)もあります。
日本に分布する二葉松類は、アカマツ・クロマツ・リュウキュウマツがあります。
海岸で多く見られるクロマツは、黒っぽい木皮で力強い二枚葉を持ち、男松と呼ばれ、里山や山の尾根筋で多く見られるアカマツは、赤っぽい木皮で柔軟な二枚葉を持ち、女松と呼ばれます。
日本に自生する五葉松類は、ゴヨウマツ(ヒメコマツ) ・キタゴヨウ(ヒダカゴヨウ)・ヤクタネゴヨウ・チョウセンゴヨウ・ハイマツがあります。
ゴヨウマツの枝先
松かさと種子について
松かさの成長は、マツ属とヒマラヤスギ属は2年型で、他は1年型です。
アカマツやクロマツは、4~5月に開花して受粉が行われます。マツは風媒花で、雄花の花粉は風に運ばれやすいように2つの空気袋(気のう)を持っています。
雌花は、開花時に鱗片が開いていて、受粉するとかたく閉じます。受粉後に花粉はその年いったん休眠し、ひと冬越した翌春の6月頃に受精が行われると、胚が成長して、秋に成熟した種子となります。
種子の成熟に2年かかるので、マツの枝を観察すると、雌花は新芽の先端に、雄花は新芽の下部につきます。新芽の根元、つまり昨年の枝先に昨年から成長した未熟な松かさがあります。更にその下の方には種子を放出した後の松かさがついていたりします。
種子が成熟すると松かさの鱗片が反り返り、種子はすき間から落ちて風に乗って散らばります。種子を放出した松かさはやがて地上に落ちます。
クロマツやアカマツの種子には翼があり風によって分散するため、実は小さくて食用には適していません。
ヒメコマツには種子とほぼ同じ長さの翼がありますが、ハイマツや、チョウセンゴヨウの種子には翼がなく、貯食行動を示す動物によって松かさごと運ばれ、食べ残された種子が親木から離れた場所で発芽します。ハイマツはホシガラス、ヒメコマツやチョウセンゴヨウはリスなどにより散布されます。
食用にされる「松の実」は、種子が大きいチョウセンゴヨウの実で、八ヶ岳や乗鞍岳などに自生しているようです。
松の実にはタンパク質が豊富で、オレイン酸やリノレン酸、それにマグネシウムや亜鉛が多く含まれ、中国では「長生果」と呼ばれていて、仙人の霊薬で、不老長寿の薬として、また滋養強壮薬として利用されています。
古い薬物書に、松の実を粉にして卵大の団子にしたのものを、1日3回酒とともに食べると、百日で病は治り、三百日で1日500里歩けるようになり、もっと長く服用すると仙人にさえなれるとあるそうです。
日本の山伏も山での修業時にマツの実や葉を食したといわれていますが、卓越した脚力を身につけたのもマツのパワーのお陰でしょうか。
モミ属、ツガ属、トウヒ属の見分け方について
モミ属とトウヒ属の樹形はクリスマスツリー型で対称であるが、ツガ属の樹形は頂部が斜めに傾いていて非対称である。
モミ属の松かさは直立し、種子が熟すと鱗片がはがれ落ちて軸だけ残っている。ツガ属とトウヒ属の松かさは下垂し、種子が熟すと鱗片が開いて隙間ができる。ツガ属の松かさは小さく、トウヒ属は大きくて長い。
富士山御庭のシラビソ
富士山奥庭のコメツガ
モミ属の葉柄部は吸盤状になっていて、葉が落ちると枝に円形の葉痕が残る。ツガ属は葉のつく枝の部分が盛り上がって葉枕を形成する。トウヒ属ではこの葉枕部分が発達して突き出ている。
モミ属のモミの当年枝には毛があるが、ウラジロモミには毛がなく、縦しわがあり、シラビソやオオシラビソには細毛があって、縦しわがない。シラビソとオオシラビソの違いは、当年枝を上から見たときにシラビソは枝が見えるが、オオシラビソは葉に隠れて見えないという。
モミとウラジロモミの樹皮はツガ属やトウヒ属と同様に鱗片状にはがれるが、シラビソとオオシラビソは平滑で樹脂袋が点在する。
ツガ属のツガの当年枝には毛がないが、コメツガには毛がある。ツガの葉柄はほぼ直角に曲がるが、コメツガはそれほど曲がらない。
トウヒ属のトウヒの樹皮は灰白色で鱗片は小さめ、他は灰褐色でヤツガタケトウヒ(ヒメマツハダを含む)の鱗片は小さめだが、ハリモミ(バラモミ)、イラモミ(マツハダ)、ヒメバラモミは灰褐色で鱗片は厚めで大きい。
トウヒの葉は扁平で表面に2条の灰白色の気孔線があり、他は菱形で4面に気孔線がある。イラモミはやや扁平で弓なりに上向きにねているが、ヤツガタケトウヒは開出している。ハリモミの葉は太めで15~20mmと長く先が鋭くとがっているが、ヒメバラモミは10~13mmと短い。
トウヒ、ヒメバラモミの松かさは長さ3~6cmと小さめで、イラモミ、ヤツガタケトウヒ、ハリモミは6~12cmと大きい。
参考までに調べた事項を整理して列挙してみましたが、環境条件などによって形や大きさ、色など一概にはいえませんので、やはりフィールドに出て観察してまた調べてと、何回も繰り返さないと見分ける力はつかないでしょうね。